漢方で体質改善~女性の悩みに東洋医学のチカラ~
生理痛や月経不順、またPMSなどの生理に伴う不調に悩んでいる女性は多いのではないでしょうか。食事や睡眠などの生活習慣を見直して改善しようと思っても、勉強や仕事、家事、育児などで忙しく、ケアを十分にできないこともあるでしょう。そんな時は症状と体質の両方を改善してくれる漢方薬を利用してみるのもおすすめです。
漢方薬にはたくさんの種類があり、症状や体質によって選ぶ処方が変わってくるので「難しそう」と思う方もいるかもしれませんが、何千年も前から治療に使われていて、西洋医学では治療が難しい婦人科系のさまざまな悩みを解決してくれる心強い存在です。
ここでは、自分に合った漢方薬を見つけるために、東洋医学の考え方や漢方薬の選び方について紹介します。
東洋医学の病気の考え方
東洋起源の伝統医学を総称して「東洋医学」と呼びます。
西洋医学と東洋医学では病気の捉え方に違いがあり、西洋医学では局所の病名を診るのに対し、東洋医学では全体的な心と体の状態を表す「証(しょう)」を診ます。
東洋医学では「心」と「体」は一体として捉えられ、「肝・心・脾・肺・腎」の「五臓」がお互いに連携をとりながら機能し、このバランスが崩れた時に心身の不調や病気が現れると考えられているのです。
また、証を診る基準の一つに「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という考えがあります。「気・血・水」は東洋医学における体の基本構成要素で、「気」とは生命エネルギーのこと、「血」とは血液とその血液が運ぶ栄養素のこと、「水」とはリンパ液や汗・尿など血以外の水分のことです。
この3つの要素が不足したり滞ったりしても心身の不調が現れます。
証を元に生薬を複数組み合わせて処方される漢方薬は、「気・血・水」のバランスを整え「五臓」の働きを調整することで、心身ともに健康な状態に導いてくれるのです。
そして、「未病」という考え方も東洋医学の特徴です。
西洋医学では、体に不調があっても検査で異常がないと病気とはみなされず、治療が行われない場合が多々ありますが、東洋医学では検査で異常がなくても不調がある状態を「未病」と呼び、病気に近づいている状態として治療を行います。
そのため、冷え、頭痛、肩こり、食欲不振、イライラ、うつうつ、不眠などの不定愁訴や病名が付かない症状など、西洋医学では治療が難しい症状に対しても東洋医学では対応することができます。西洋医学の薬だとそれぞれの症状に合わせていくつもの薬が必要な場合でも、漢方薬なら一つの処方で全身のあらゆる症状を解決してくれることも多いのです。
女性の不調を改善するのは漢方薬の得意分野
生理のある女性の場合、通常は生理の周期(生理の開始日から次の生理の開始日前日までの日数)は28日で、生理の期間(出血の日数)は6日間です。生理痛などの生理中の不調に加えて、生理が始まる1週間ほど前からもイライラや胸の張りなどの不快な症状(PMS)が現れるとなれば、ひと月のうち約半分の期間を生理に関わる悩みに左右されていることになります。
生理に伴うなんらかの不調で悩む女性は多いものの、「生理痛があるのが当たり前」「生理の不調は仕方ないこと」と思っている方も多いようです。中には、生理痛がひどくて病院を受診しても検査の結果は異常なく、治療が行われずあきらめてしまった方もいるかもしれません。
しかし、東洋医学ではそれを「正常な状態」とは捉えず、治療による根本的な改善を目指します。そして、漢方薬は生理に伴う不調だけでなく、不妊治療の一環として妊娠しやすい体づくりのサポートや、更年期障害の症状の改善など、女性の悩みに幅広く対応してくれるのです。
生理は女性の人生の多くの期間に関わっていて、妊娠・不妊という重要事項にも直結しています。不調はつきものと考えずに、食事や睡眠といった生活習慣やストレスなどを見直し、必要であれば漢方のチカラも借りて、体質改善を図りましょう。
なお、痛み止めの薬が効かないほどの重い生理痛や月経過多等がある場合は、まずは婦人科の病院を受診して子宮筋腫や子宮内膜症などの病気が隠れていないか検査を受けましょう。病気があった場合は西洋医学の治療が優先です。
異常を放置していると、最悪の場合は手術によって子宮を摘出しなければならなくなる可能性だってあります。
西洋医学でも東洋医学でも、病気は早期発見と早期治療が肝心です。
生理の不調に効く代表的な漢方薬
東洋医学では生理痛などの月経異常を、「気・血・水」のうちの「血」が滞る「瘀血(おけつ)」が原因と考えます。
「瘀血」を改善する漢方薬は、体力の有無や生理に伴うその他の症状によって処方が異なりますが、どれも血流を良くし冷えを解消するものです。「血」の巡りを良くすることによって「気」と「水」のバランスも整うので、むくみ、便秘、イライラなどの生理に伴う不調も緩和されます。
代表的なものは次の4つです。
【加味逍遙散(かみしょうようさん)】
ストレス・不安がある人向けの処方。手足が冷える一方で顔がのぼせる人、生理前にイライラしやすい人に。血と気の流れを整えて冷えのぼせを改善します。
【当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)】
疲れやすく体力がない人向けの処方。手足が冷えて、疲れやすい人に。血と水の巡りを良くし、めまい・むくみ・頭痛などを改善します。
【桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)】
生理前にお腹が張る人向けの処方。足が冷えて顔がのぼせやすい人、生理前から生理中にお腹が張って痛む人に。便秘にも効果があります。
【桃核承気湯(とうかくじょうきとう)】
体力がある人向けの処方。鎮静作用があり、生理前や生理中のイライラや不眠に効果を発揮。頭痛やのぼせを改善します。
効果が出るまでには個人差があり、早ければ翌月から効果を感じる方もいますが、数カ月かかる場合もあります。
また、生理の数日前から服用して生理痛を和らげる「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」という漢方薬もあります。
【芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)】
子宮を収縮させ生理痛の原因にもなるプロスタグランジンというホルモン様物質の分泌を抑える作用があり、生理痛を緩和します。
上記の処方はほんの一例です。その他にも体質や症状に応じてさまざまな処方があります。
体がだるい・眠い・抑うつ状態など「気」が低下している症状が強い場合には気を補う漢方薬を、また月経不順や不妊症は「五臓」のうち生殖器の機能をつかさどる「腎」が弱っているために生じるとされるため、その場合は腎の滋養不足を補う漢方薬を選びます。
漢方薬の選び方・購入方法
漢方薬を選ぶにあたっては、ドラッグストアで市販の漢方薬を購入する方法と、病院や漢方薬局で処方してもらう方法があります。それぞれの利点と注意点を紹介するので、決める際の参考にしてみてください。
人によって漢方薬に使える月々の予算も異なるでしょう。
漢方薬は長く飲み続けることで効果が得られるものなので、無理のない予算を立てて、すぐには効果が感じられなくてもしばらく続けてみるのが大切です
①ドラッグストア・通販
漢方薬はドラッグストアでも市販されていて手に入りやすい薬です。パッケージにどんな体質や症状に合った漢方薬なのか記載されているので、それを参考に選んだり、お店の薬剤師に相談したりすると良いでしょう。通販でも購入できます。
ただし、ドラッグストアや通販の漢方薬は簡単に入手できる反面、副作用が出にくいように、病院や漢方薬局で処方される漢方薬に比べると有効成分が少ないものになっています。
どれを選んで良いか不安な方やしっかり漢方薬で治療をしたいと思う方は、漢方薬に対応している病院や漢方薬局で処方してもらう方がおすすめです。
②病院・クリニック
女性の諸症状の解決に有効な漢方薬は、多くの婦人科系の病院で治療の選択肢の一つとして取り入れられています。
しかし本来漢方薬は「証」を診て処方されるものですが、漢方に詳しい医師でないと、症状だけを見て処方された結果、効果が十分に出ない、または副作用が強く現れてしまうということもあるため、漢方専門医がいる病院や漢方外来を探して受診するのが安心です。
血液検査などの西洋医学的な診査も併せて診察してもらえます。
また、病院によって漢方治療は自由診療(保険適用外)となるところもあるので、そちらも事前に確認しておきましょう。
漢方治療が保険適用であっても、漢方薬には保険適用外のものもあります。
日本で承認されている漢方薬は300種類近くあり、そのうち保険適用なのは約半分です。基本的には保険適用の漢方薬の中から処方してもらえますが、症状によっては保険適用外の漢方薬を勧められることもあるため、予算も伝えながら相談しましょう。
最初は様子を見るために、2週間分くらいを処方されるのが一般的です。その後、変化を見て処方を調整したり、長めに処方したりします。
※「証」の診断方法
東洋医学では「望診(ぼうしん)・聞診(ぶんしん)・問診(もんしん)・切診(せっしん)」の四診(ししん)を行い、患者の「証」を決定します。
西洋医学では同じ病名の人でも、東洋医学では証が違えば異なる漢方薬を処方する場合があり、証の診断は重要なポイントです。
・望診…肌色や肌つや、目、爪、髪、舌の状態などを観察します。歩き方や姿勢なども含まれます。
・聞診…声の強弱やかすれ、話し方などを観察します。体を揺らして胃がポチャポチャいわないかなどや、鼻による体臭・口臭などの観察も含まれます。
・問診…患者から症状を聞き出します。西洋医学の診察でも症状について質問されますが、東洋医学では西洋医学では尋ねないようなことが重要な診断要素になることもあります。
・切診…「触診」のことです。脈の回数や強弱を診る「脈診」と腹部を押したりして観察する「腹診」などがあります。
③漢方薬局
漢方薬局とは漢方薬を専門に扱っている薬局で、専門知識をもった薬剤師が対応してくれます。
病院ではないので保険適用外となりますが、その反面、保険に捉われずに処方ができるため、より自分に合った処方をしてもらうことが可能です。
現在は女性が入りやすいサロンのようなおしゃれな雰囲気の漢方薬局が増えていて、対応してくれる薬剤師も女性が多いので、「病院を受診するのはハードルが高い」という方でも相談しやすいのではないでしょうか。
「病院に行くほどではないけれど不調がある」という方でも気楽に利用でき、ダイエットや便秘などの相談にも応じてくれます。
法律上、医療機関ではない漢方薬局では切診(脈診・腹診)ができないため、その代わりにじっくり対話することで漢方薬の処方を決めるのも特徴です。時間をかけて心身の状態や生活習慣などをカウンセリングし、体質改善のためのアドバイスとひとりひとりに合ったオーダーメイドの処方をしてくれます。
また、栄養士による栄養指導や、体質に合った足つぼマッサージなどを行い、漢方薬以外でも健康をサポートしてくれる漢方薬局もあり、人によっては病院よりも身近で頼りになる存在かもしれません。
漢方薬のタイプ(剤型)について
漢方薬のタイプ(剤型)もいくつかあり、ドラッグストアで購入できる漢方薬と漢方薬局で処方される漢方薬は全く異なるので、その点も把握しておきましょう。
【エキス製剤】
生薬の成分を抽出し、濃縮・乾燥させたもの。
顆粒のものやカプセル加工したものがあり、現在ドラッグストアで見かける漢方薬や病院で処方される漢方薬はほぼエキス製剤です。飲みやすく携帯にも便利ですが、生薬の配合を変えることはできません。
【煎じ薬】
生薬を30分以上煮出し、濾した液を服用するもの。
本来漢方薬の大半は煎じ薬で、成分だけでなく香りや味にも効能があるとされるため、飲みやすく加工されたエキス製剤よりも薬効が強いとされます。ひとりひとりに合わせたオーダーメイドの生薬の配合が可能で、漢方専門病院や漢方薬局で処方されるのは主にこのタイプです。
家庭で毎日煎じるには時間と手間がかかりますが、薬局で煎じた後、一回分ずつレトルトパックにしてくれる有料サービスもあるので、そちらを利用すると便利です。
※「葛根湯」など名前に「~湯」とつくのが煎じ薬です。その他、「当帰芍薬散」など「~散」とつくのは生薬を粉末にして混ぜたもの、「桂枝茯苓丸」など「~丸」とつくのは粉末にした生薬を蜂蜜などで丸めて固めたものです。
エキス製剤で、「~散料」「~丸料」というように最後に「料」と書かれているのは、本来は粉薬や丸薬のものをエキス剤にしているという意味合いになります。
漢方で日々を快適に、布ナプキンでさらに心地良く
漢方薬は種類が多く選ぶのが難しそうな印象を受けるかもしれませんが、漢方に詳しい医師や薬剤師に自分の体質や症状をきちんと伝えることができれば大丈夫です。
漢方治療に多少費用はかかっても、毎月のつらい生理痛やイライラなどの不快な症状に悩まされることがなくなったら、とても楽でうれしいですよね。
症状を放置した結果、病気や不妊になってその治療にお金と時間を費やすより、そうならないよう健康のためにお金と時間をかける方が良いのではないでしょうか。
食事や睡眠、ストレスなど、日々の生活習慣を見直すことも大切です。そこに漢方のチカラを加えて体質改善を後押しし、さらに肌触りの良い布ナプキンで生理の期間を心地良く、生理の期間以外も布ライナーを使って子宮を冷やさないようサポートしてあげれば、「生理=憂鬱なもの」という感覚はきっと変わっていきます。
「生理痛があるのが当たり前」「生理の不調は仕方ないこと」ではなく、生理痛やその他の不調がない方が正常で健康な状態なのです。
生理の日もそうでない日も、快適に過ごせるようにしていきましょう。